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ExSAX Hideki Tachibana AltoSaxophone Solo Works  liner notes

CDではスペースの都合上、書ききれなかった説明とか言い訳とか曲の解説などを紹介する。
本来ならばブックレットとして封入すべき内容であるが、、、
凄く長くなるので暇人向けです(笑)

アルトサックス・ソロ・アルバムを作りたいとは結構前から考えていた。渋さ知らズのヨーロッパ・ツアー(僕の参加は2005年より)の後に旅の印象をソロで振り返る、と言うライブをやっていた頃だと思う。その頃は今ほど特殊奏法に特化した演奏ではない即興や曲を演奏するライブであった。で、考えていた、とは言っても漠然としていたから「まぁその内作るか~」くらいの気持ちであり、大体そう言うのって腰が上がらない(笑)。そうこうしてる内に新たな奏法を学んだり思いついりしていたらコロナ騒動。3ヶ月ライブが止まると言う異常事態。僕も何かをしようと考え youtube でアルトサックスの特殊奏法を紹介する演奏動画「特殊奏法のススメ」シリーズを開始する。しかしこのシリーズは家を出れない人やコロナ関係で大変な思いをされてる方達に楽しんで貰えたら、と言う思いがあったので無料公開、、と言う言い訳でスマホ一発録りと言う素人同然のレコーディングなのでクオリティは宜しくない。ならば一回整理してやり直そうか、と考えアルバム制作に着手する事にした。

コンセプトはアルトサックスにおける特殊奏法を出来るだけ分かりやすく紹介するアルバム。その為ライブで行う様なワンステージ即興にはせず、似たような傾向の奏法で作曲する、また、基本的にサックス一本での特殊奏法でありエフェクター、重ね録りなど機械的効果は使わない、複数本同時演奏は行わない、などのルールを決めた。

今作は時間のかかる録音になると考え、スタジオなどの費用は当然ないので自宅で録音する事にした。当初借り物のICレコーダーで録音開始。四ヶ月ほどして数曲完成。その事を渋さ知らズの仲間に話すと録音機材良いの貸すよ~と言ってくれた。。。はい、やりなおし~~。ホント、良い機材使うと全然ちゃうのね。と言う感じでまた四ヶ月、、、明日はもっと良いテイクが録れるんぢゃね?と言う罠に嵌って中々先に進めなかったが、いつまでたっても終わらないのは駄目なので録音を完了する決断をした。もっと良い表現やテクニック、など、それは次回のアルバムでやれば良い、と(笑)。

今回はこんなマニアックな内容の作品を持ち込まれても迷惑だろう、と思いお世話になったレーベルではなく2020年に「片山広明 4SAX 刻 HASHed Music」を発表する為に僕が立ち上げ、その役割を終えた筈の NEIKAI RECORD でのリリースとした。録音が終わっても編集、ミックス、マスタリング、ジャケット制作などの作業を経てプレス、完成、とまだまだ道半ば。自主制作の宿命である「なるべく予算をかけない」為に編集は要らない部分カットや別テイクとの合体など、無料配布のソフトを使い自分で。流石に専門機材が無いのと第三者目線が欲しかったのでミックスとマスターは仲間のエンジニアとミュージシャンにお願いする。次にジャケットなどの印刷関係、素人であるけど画像加工など多少は出来るのでやれる所までやってみよう、と。今回見た目でわかる特殊奏法(と言うか見えないと訳分からない音あるしw)の紹介もしたいので写真をメインにしてジャケットを作ると決め、自撮りは無理なので駆け出しの写真家に格安でお願いする。デジカメって便利だけどフィルムとは違って沢山撮れるから、、、データは1000枚超え(笑)。その中から奇跡的に一枚良い感じの写真があり、それを表紙とする。ちょっとカッコ良いのでCDを手にする人が勘違いしないように裏はオフザケ写真を採用。表紙の階段が「E」っぽく見えるので裏に「X」をデザインし、ジャケを開くと「EX」と見えるようにした。なのであんまり見ない逆開き。

ジャケット中面は当初は抽象的な感じで「聴く人が想像してくれい」と言う感じに作ったが、せっかく特殊奏法のアルバムなのだから解説つけてちゃんとやりなさい、と言うAASのピアニストであり元デザイナーの山口コーイチ氏からのありがたいアドバイスにより現在の形に変更。更に見かねた氏が表面のデザインを作ってくれた。表だけプロっぽく、他は素人臭いのはその為である。まぁ、アルバム内容を見た目で分かると言う意味ではバラバラ感があって良いかな、と。そうこうしてるとスッカリ盤面の事を忘れていた、と気付く。ここにも何か面白い事出来たら、と思いちょっとしたライナー文を入れてみた。きっと世界初。知らんけど(笑)。そしてHP用に推薦文を頂く為にサックス奏者・坂田明さん、漫画家・石塚真一さん、小説家・田中啓文さんにお願いした。ツテ総動員である(笑)。お願いしたのは良いのだけど予想を遥かに超える文章量の推薦文を頂き、ちょっとビックリした(MEIKAI RECORD ホームページにて全文公開中)。文中のキメ台詞的な一言を帯に入れる。こんな感じで約五ヶ月費やし全てのデータが揃いプレス会社へ提出。色々ドタバタがあったが無事に完成品が届く。制作開始から一年二ヶ月、何とか発売に漕ぎ着けた。

はぁ~長かった。。。

次からは各曲の解説に移ります。


一曲目 My Histry lol 履歴(笑)
この曲は本来入れる予定はなかったが、録音が終盤に差し掛かっていた時期に思いついて急遽アルバムに入れる事になった曲である。2023年公開予定の某映画の原作者さんと呑んでいた時に彼が「映画の最初にフリージャズをドギャーンと入れたかった」と。まぁ、大手配給元的にそれはNGだったらしいが?その言葉はもし僕がやるならばどうするだろう、と考える切欠になった。サックス触った事ない人が上手くなって行くと言うような内容(見てないので知らないが)なら「この映画大丈夫か?」と思わせるドヘタな音から始めた方が面白いのではないか、と。僕が映画を作る訳でもないので詮無き事ではあるが、良いアイデアだ、と思った。で、あるならば製作中のソロアルバムに使おう。僕を知らない人がCDを聴いて「この人CDなんか出しちゃって大丈夫?」と思わせるド初心者の音から始めたら面白いだろう。ただ、それだけだと芸がないのでサックスを始めた頃から現在に至るまでの自分を一曲で表現しようと考えた。アルバムのオープニングとして軽く自己紹介。あまり長いと辛い(笑)ので三分くらい。厳密にメロディーを作らず「初めて音を出した→少しづつ上手くなる→4ビート→フリー→ブロゥ!」と流れだけを決め、冒頭の下手に聴かせる為の技として、舌アンブシュアやノーリップ奏法、寒くて歯がガチガチ・ヴィブラートを使った。これ等の奏法は他の曲に入れにくいと思い今回のアルバムでは披露する予定のなかった奏法なので、使えるシーンが出来て良かった。まぁ、録音でテイクを重ねる度に上手くなってしまい下手に吹けなくなる、と言う矛盾に悩まされた曲でもあるが(笑)。

ちなみに英語タイトルでの「lol」、向こうでもあるのか?と調べたらありました「(笑)」。Laugh Out Loud の頭文字。


二曲目 Beat of Wind 風の鼓動
録音を開始した時に最初に取り掛かって最後に完成した曲である。録音環境が変わり他の曲同様録り直しすべきか最後まで迷った。だってスゲー痛いんだもん、、この特殊奏法。。。内容は良いので、若干音質変わるケド仕方ないだろう、とICレコーダーでのテイクを使う事にした、のだけど、全ての曲の録音を完了した時に「一応やり直してみるか、駄目でも最初のあるし~」とやり始めたら二週間くらいで何とかなった。スゲー痛かったけどね。

構成はブレストーンから徐々にサックスの音(サブトーン)に変化し、キーパーカッションに音とヴォイスを混ぜ、フラッター、イビキ、バジング等を使い同時に色んな音を奏で、中盤から最後にブロウしてカタルシスを向える、と言う流れ。後半のノイジーなパートでは下唇の際を噛む為モノッ凄く痛いのだがキュコキュコと軋む様な変な音が混ざる。これはこうすると出ると分かっても自分で音程、リズムなどコントロール出来ず出た所任せの不安定な技である(笑)。採用テイクでは再現出来なかったがICレコーダーで録った初期テイクには電子音の様に聴こえる所もあった、不思議。。とにかく色々な音を同時に鳴らすと言う、考えようによってはアルバムで紹介する技の集大成的な側面もあるので曲順ラストにするべきか、とも思ったが最初にビックリさせようとオープニングにして他の曲順などを決めた。ま「履歴(笑)」出来ちゃったから二曲目になっちゃったケド。結果的にはコレが一曲目だと真面目すぎたかな?と思うし、アルバム全体を考えると他にも変な曲があるから「えぇ?」となる曲を最初にして正解だった、、と思う。

ちなみにこの曲、最初は20分を超える演奏だった。流石に長すぎて他の曲入らないよぉ、と考えに考え、絞るに絞って、、でも15分(笑)。


三曲目 Spring Breeze 春風
動画「特殊奏法のススメ」シリーズを制作している時に思いついた奏法、サイドタンギングの曲。ローランド・カーク氏の様に楽器を二本三本と同時に吹くならば出来る「ロングトーンとタンギングを同時に聴かせる」と言うのをアルト一本で出来ないかなぁ~と思ったのが最初。マウスピースを横から咥えてリードの端だけタンギングして舌の当たらない部分でロングトーンに出来ないか?と考えた。実際はタンギングと言うより引っかいた様な音になったが、まぁこれはこれで(笑)とメロディーを作りタンギングをパーカッション役に。やりすぎると舌先がヒリヒリと痛くなるので注意。


四曲目 Slapstick Tongue and Claws ドタバタ舌と爪
マウスピース周りでパーカッシブな音を出す特殊奏法の曲。舌をリードに吸着させてから離す、軽く息を吹き込みながら舌でリードを叩く、と言う二種類のスラップタンギングの他、リードを舌で擦る、咥えながら歯を鳴らす、リードを爪で叩き音を鳴らす、舌打ちなどの奏法を用いて演奏。フィンガリングによってある程度音程が変わるのでメロディーを作った。特殊奏法界隈では割とポピュラーな技である。


五曲目 Hard Days 大変な日々
音程感の違う何通りかのマルチフォニック・フィンガリング、ファズを取り入れたメロディーを作曲し、とにかくブロウしまくりのノイジーな曲にしようと思った。アドリブ・パートでは多分普通の人はやらないであろうカカトをベルに突っ込んで多重的な音を鳴らすマルチフォニックも入れた。この技、命名カカト落しは頭の固そうなジャズ・ファンのオッサンに「ふざけてる、真面目に音楽やれ」と言われる様な、見た目で損をする技である事も併記しておく(笑)。また、フラジオでヴィァー!と高音を鳴らしながら低域で旋律を奏でる奏法、もし誰か先駆者がいて名前を付けてたらスミマセンが知らないのでノイズ&メロディ奏法と命名。で、この技、初めの頃は低域のメロディは一音しか出せなくて自分のアルバムでは2008年制作の「AAS Lebenslauf」で披露し、その後の「AAS Song 4 Beasts」では出る音が増え、「AAS 20周年記念作品 酒屋が閉まる前に」ではこのソロ・アルバムの前身とも言うべく特殊奏法のブルースに収録。10年以上かけて進歩している様子が伺える。以上、過去作品の宣伝でした(笑)。こちらの奏法も二曲目後半と同じく下唇を強く噛むのでトテモ痛い。やりすぎると下唇が厚くなってコノ音が出なくなるし、普通の音も出なくなるので毎日練習するのは厳しい技。

余談ではあるが、とあるイベントで本番前にコノ音でウォーミングアップをしていたら対バンの著名な外国人パーカッショニストH.Bさんがウルサイ!と怒って出て行ってしまった、と(僕は気づいてなかったので)友人から聞いた。他にも工事現場か?と言われたりもしたなぁ(笑)


六曲目 Sometimes Like Percussion 時にはパーカッションのように
こちらは四曲目と違いキーをパタパタさせてパーカッシブにリズムを作り本来のサックスの音と同時に鳴らすと言うコンセプトで作曲した。元々の発想としては、サックス、と言うか木管楽器特有のキーの開閉音が聞えてしまう、と言うのが嫌だったと言う事から。クラシックのコンサートで静かで美しい旋律を奏でる時にパタパタ鳴ってるのが凄く気になって、、まぁ、そう言うモンだと諦めたら慣れたけど(笑)。で、発想転換。逆にパタパタパーカッションにしてしまえば良いのだ!と。特殊奏法としてはメジャーな部類に入ると思うので僕なりのプラスアルファを考えてみた。ある程度音程は変わるので木琴などの鍵盤打楽器の様にトリル(テロテロテロと連打する事)してロングトーンの代わりとし、メロディを作り、それだけだと芸がないのでサックスの通常音も同時に演奏する。その際、音程が変わらないように干渉しない場所のキーを叩く。最後にリズムを作りフラジオでメロディ(口で音程を変える)を奏でる、と言う構成にした。

ちなみに本来の運指より握力に負担がかかる技。やりすぎると腕が筋肉痛に。。まぁ、鍛えてない僕だから、か。。。


七曲目 Beautiful Vibration 美しき振動
舌を使った特殊奏法を紹介する曲。三曲目と違いポピュラーな奏法で構成した。サックス音を出さずにフラッタータンギング(スラップタンギング高速版とも言える)のメロディーから始まり徐々にサックス音の混ざるフラッタータンギングへ変化。通常のフラッター音からノドチンコを振るわせる(ウガイもしくはイビキの要領)フラッターや舌をリードに当てないタンギング、マウスピースの横から息を漏らしバジング音を混ぜる(舌技ではないが…)、フラジオフラッターなど。この技術は結構耳障りな音になる為あえてバラード系のメロディを作った。

尚、これらフラッタータンギングやバジングでは唾が飛散しヨダレも出るので人前でやる時はソーシャルディスタンスに注意しましょう。


八曲目 Metamorphosis 変態
この曲は数年前、それまでやっていたマウスーピースを直接ボディに突っ込んでソプラノっぽい音を出す奏法の時、使ってないネックをバジングで吹いたらローランド・カーク氏の様に複数の音を同時に鳴らせるゾ、と思いついた事が発端となって生まれた。マウスピースだけの演奏からネックバジングとの同時演奏を経て音を途切れさせる事なく楽器を組み立てサックスの音になる組立奏法。サックスになってからもベルを足で塞ぎ最低音B♭をGまで拡張し、その後分解奏法へ移る。ボディ+ネックをバジングしながらマウスピースを同時に、マウスピース+ネックをベルに突っ込んで鳴らす、などを経てマウスピース+ボディとネック・バジング同時演奏にヴォイスを足しエンディングへ至る。と言う流れで変態して行く過程を表現した。

よっし変態録音完了。と思ってたら暫くして新たな変態を思いついてしまった。マウスピースやネックの端っこを手で叩くと鳴るポンッ、リードを指で擦ったり、マウスピースを吹きながら頬をネック端で叩く、フルート奏法など、およそサックスを演奏しているとは思えない行為が続くが各パーツから出せる音は全て使う奏法、と言う事で御理解頂きたい。流石にパンクロックの様に楽器を破壊したり燃やしたりしないけど(笑)。そんな訳で新たな思いつきパートは冒頭部分に足す事にしたのだが別の日に録音した為若干ノイズの乗りが違う。まぁ、動画と違って繋いだのがバレ難いから良いか、と(笑)。

ちなみにローランド・カーク氏はサックスを三本同時に吹くしフルートや体に色んな鳴り物をぶら下げて様々な音を出す人でサックスをメインにしつつも色々な楽器を演奏する音楽家だった。しかし楽器三本用意するのも大変だし重いし片付けメンドイし運搬もシンドイ。なら僕はアルトサックス奏者としてアルト一本でやれるとこまでやってやるゾ、と言う阿呆な対抗心からナイ頭ひねってこの奏法に辿り着いた訳だ。ある意味カークさんのお陰とも言える。カークさんありがとう。

追記:最近テナーサックスの演奏も始めたが同時演奏、もしくは持ち替え演奏をする気はない、、ので自らの肩書きをアルト or テナーサックス奏者としている。仕事の依頼はどちらかをご指定下さい。持ち替えの場合は別料金となります(笑)


九曲目 Sucking Sax サックス吸ってみた
色んなバキューム・プレイを集めた曲。大まかに三通りの吸い方による。
一つ目。マウスピースのネックと接合する方を掌で押さえ、リード部分からチュウチュウ吸う事により内部の気圧変化が生じ、リードで開口部に蓋がされる。掌を緩めるとリードが弾けてポンッと鳴る。厳密に言うと吸引により仕込まれたリードの打撃音である。

二つ目。リードを指で押え強さを調整しながらマウスピースのネックと接合する方を吸う。三つ目に紹介する奏法と違い通常音を出す時と空気の流れは一緒であり、リードの振動による発音である。また、これら二つの奏法はネックを装着した状態でも同様。

三つ目。サックスに組み上げた状態でマウスピースを浅く咥えバジングの要領で吸う。つまりはバジング音を増幅する為なのでサックスである必要はない(笑)のだが一応サックスの特殊奏法としてはやってる人はやってる、と言う技である。口の内部容積の変化(舌を使う)によりある程度音程を変える、ノドチンコを使った吸引フラッターや吸引循環呼吸、吸引スラップタンギングなどの技を紹介。また、バジングでの吸引の他に二曲目で紹介したブレストーンの吸引奏法も使用。こちらは吸う時に唾の音を利用しジュルジュルと言う音や舌の脇を微振動させギギィーと言う音を混ぜる。全くサックスとは関係のない音が続くが一応サックスの~以下略~

最後に二つ目の奏法の発展型、全てのキーを塞ぎベルに顔を押し付けて思いっきり吸う、リードの振動による発音。顔の密着度合いを変える事により多少の音程の変化がつけられる。しかしこの技はリードを押さえる手段がない為負荷がかかり易く、通常音を鳴らすのが困難になるほど割れるのでお気に入りのリードは使わない事をおススメする。

※ この曲で紹介した吸引奏法は結構肺に負担のかかる技なので吸い過ぎにご注意下さい。


十曲目 Hikouki 飛行機
 Composition by Daisuke Fuwa   作曲:不破大輔
 Lyrics by Takuboku Ishikawa  作詞:石川啄木
数年前に思いついて、でもこの技は宴会芸だなぁ、と真面目に練習はしてこなかったが今回のアルバムで収録するにあたり練習頑張ってみた。途中何度も「俺サックス奏者なのに、いったい何やってるんだろう?」と自分の行いに疑問を持つが気にしたら負け、のサックス腹話術である!!

選曲は渋さ知らズで馴染みが深いので「飛行機」にした。本来 A-A-B-A の曲であるが A-A-B-Solo-A と言う構成に変更。冒頭の繰り返す A は対比として、一回目をマウスピースを咥えながら歌い、合いの手にサックスを吹く、なんだ同時にやってないぢゃんwと思わせといて二回目に同時演奏して驚かせる、と言う手。B では前出のキー・パーカッションも織り交ぜてより多重的な演奏とする。ソロパートはサックス・ベースラインにヴォイスでアドリブしながらフリーインプロへ展開し A テーマへと戻り終了。ここでも何か面白く出来ないか?と考えデスヴォイスで歌詞を歌う事にした。見よう見まねのなんちゃってデスだが、結構喉に負担がかかって大変だった。他にも吹きながらの発声は声が小さく聞き取り難いのでサックスの音を極力小さく吹き、声を大きくする為に腹に力入れて演奏する、という何か変な圧がかかって頭がクラクラして、やり過ぎると危険な感じが。。。あと、歌っている時はタンギングが出来ないので顎を前に動かして強弱つける事でそれっぽくしたり、腹話術の発音「マ行」「バ行」唯でさえ大変なのにマウスピースを咥えてってのが、、(某有名歌手で発音を濁らせて歌う方もいるので、多少怪しい感じでも良しとした!)。また、メロディ(声)に釣られてサックス(ベース)のリズムや運指が上手く取れなかったり(弾き語りとかドラムの人スゲー)。等々、全くサックス関係ない所で努力を強いられる特殊奏法である(笑)

ちなみに腹話術を勉強しようといっこく堂先生の動画を見たが、口が全く動かないので何の参考にもならなかった、と言うオチもある。


十一曲目 Overlapping Trilogy 織り重なる三部作 
五曲目とは違うアプローチの重音奏法を紹介する曲。

part 1 Debut  その① デビウ
オーバートーン(倍音奏法)。倍音音階による単旋律の導入部から同時に鳴らすパートへ移る。舌の形を調節する事により倍音以外の音も混ぜる。これらはフィンガリングによらないマルチフォニックとも言えるが定義がされていない(と思う)のでここではオーバートーンとした。また、やめときゃ良いのに循環呼吸で音の途切れない曲にしたので録音が大変。最後で失敗すると最初からやり直し(笑)。流石に最後は息継ぎしてしまったが。。。

part 2 Duet   その② デュエット
オクターブ奏法。とは言っても倍音のオクターブ音を同時に鳴らすのでオーバートーンである。ただ、よりオクターブを意識して音を出すので他の倍音は聴こえない。マルチフォニックと違い通常の運指が可能。やり方としてはオクターブ・キーを押さない状態でアンブシュアを調整し、オクターブ上の音を出す方法に頑張って下の音も同時に鳴らす。以上。

part 3 Dance  その③ ダンス
前出の二つの奏法に、このアルバムで紹介してきた奏法を織り交ぜてリズミカルな曲で締めくくる。エンディング以外は明確なメロディは作らず、とにかく自由に踊る感じ、とだけ決めて即興演奏。最後に「ありがとう」と歌ってこのアルバムのフィナーレとした。

やり直しも含めて、およそ八ヶ月の録音が終わった。長かった。。



と思っていたら。。。。

十四曲目 Pray 祈り
すべての録音が終わり気がついた。曲数は11だが三部作があるのでCDのトラックは13曲となる。縁起を担ぐわけではないが13はなぁ~と。いや、担いでるぢゃん(笑)。全ての曲足しても5分ほど余っているのでCDの収録可能時間74分(CD発表当初の限界時間)ピッタリにしてやろう、普通に吹いている曲がないので一曲くらいは、と我がバンドAAS(アァス)のレパートリーである「祈り」を収録することにした。録音開始の2022年4月上旬、ウクライナでのロシアによる侵略戦争真っ最中、早く終わって欲しいとの願いもあり選んだ。

ウクライナはクリミアの浜辺のフェスに渋さ知らズ・オーケストラで一度出演した。なんだか訳の分からない熱気があって面白いフェスだった。ロシアは渋さ以外でも何度か訪れた。面白い体験もしたし、ちょっと辛い目にも遭ったけど、皆さん大体の人はライブを楽しんでくれたので行って良かったと思う。だけど、もしかしたらライブを体験してくれた人達が戦場で、知らずに殺し合いをしているのかも、と思うとやりきれない。そうでなくとも無関係の人達が沢山殺されてる。戦争や暴力で物事を解決する、と言う発想をこの世からなくして欲しい。

曲の最後のロングトーンは循環呼吸による。喉を意図的に鳴らす事により小さな音だが鼓動の様な音を入れた。僕なりの命に対するメッセージとして、このアルバムの全ての録音を終えた。

以上、全12曲の解説でした。



最後にこのアルバムのタイトルについて。
本当にね、タイトルとか曲名考えるのが苦手で(笑)。動画のタイトルそのままでも良いかなぁ~とか考えていたのだが、やっぱりそれだと芸がないしな~と。特殊奏法を英語では「Extended Techniques」とか「Spcial Techniques」と言う。スペシャルよりはエクステンドの方がカッコ良いと思うので「Extend~~」と言う言葉を探した。良い感じの言葉は見つからなかったが「Ex~」で「~を超える」と言う意味がある事がわかった。であるならば、SAXの常識を超える、特殊奏法のSAX、等の意味を込め「ExSAX」と言う言葉を創った。アルトサックスを手にして35年ほど、アルトに拘り、この楽器一本で出来る事を探し、2022年での僕の到達点でもあるこのアルバムに相応しいタイトルになったと自負している。

まぁ、このアルバムを録音始めるチョイ前にとある著名な方からテナーサックスを永久借用する事になり(色々あったのよ、色々、、、)、今ではアルトとかテナーとか、あんまり拘ってない(笑)。
次はテナー上手くなったら「ExT-SAX」でも作るかね。
35年はかからないだろう。

​おわり

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